母子叙情
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)屑《くず》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)自身|嘗《な》めた
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「※」は「口+喜」、第3水準1−15−18、637−下−13]
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かの女は、一足さきに玄関まえの庭に出て、主人逸作の出て来るのを待ち受けていた。
夕食ごろから静まりかけていた春のならいの激しい風は、もうぴったり納まって、ところどころ屑《くず》や葉を吹き溜《た》めた箇所だけに、狼藉《ろうぜき》の痕《あと》を残している。十坪程の表庭の草木は、硝子箱《ガラスばこ》の中の標本のように、くっきり茎目《くきめ》立って、一きわ明るい日暮れ前の光線に、形を截《き》り出されている。
「まるで真空のような夕方だ」
それは夜の九時過ぎまでも明るい欧州の夏の夕暮に似ていると、かの女はあたりを珍しがりながら、見廻《みまわ》している。
逸作は、なかなか出て来ない。外套《がいとう》を着て
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