一ものゝ頸飾りをちょっとつまんで、
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――これよく似合うね。君に。」
――でも、これはほんの廉《やす》ものなの。こちらのマダムのなんか見ると、まったく悲しくなるわ。」
[#ここで字下げ終わり]
新吉はこの娘はまだ十七に届いていない年頃なのに相当、人の機嫌をとることにも慣れて居るのに驚いた。夫人も上機嫌で娘に言った。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――あんた、せい/″\此のムッシュウの気に入るように仕掛けて、あたしのような首飾りを買ってお貰いなさいよ。」
[#ここで字下げ終わり]
新吉の日本の妻にさえ嫉妬する夫人が眼の前の此の娘の出現にこんなに無関心で居られる――娘といい、夫人といい、巴里の女の表裏、真偽を今更のように新吉は不思議がった。遊戯のなかに切実性があり、切実かと思えば直ぐ遊戯めく。それにしても上流中流の人達が留守にした巴里の混雑のなかに、優雅な夫人と、鄙《ひな》びて居ても何処か上品な娘を連れた新吉の一行は人の眼についた。
昼の食事の時刻も移ったと見えて店内の客はぽつ/\立上って行く。男女二人ずつ立って行く姿が壁鏡
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