巴里のむす子へ
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)訣《わか》れて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大声|挙《あ》げて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)どういうとき[#「とき」に傍点]
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巴里の北の停車場でおまえと訣《わか》れてから、もう六年目になる。人は久しい歳月という。だが、私には永いのだか短いのだか判《わか》らない。あまりに日夜《にちや》思い続ける私とおまえとの間には最早《もは》や直通の心の橋が出来《でき》ていて、歳月も距離も殆《ほとん》ど影響しないように感ぜられる。私たち二人は望みの時、その橋の上で出会うことが出来る。おまえはいつでも二十《はたち》の青年のむす子で、私はいつでも稚純《ちじゅん》な母。「だらしがないな、羽織《はおり》の襟《えり》が曲《まが》ってるよ、おかあさん、」「生意気いうよ、こどもの癖《くせ》に、」二人は微笑《びしょう》して眺め合う。永劫《えいごう》の時間と空間は、その橋の下の風のように幽《かす》かに音を立てて吹き過ぎる。
二人の想《おも》いは宗教の神秘性にまで
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