外に立ち勝った私の迎え方に有頂天になって、私の肩を抱えて、「御免、ね」と子供のように謝《あやま》りました。私は何とも知れぬ涙がはらはらと零《こぼ》れて、花のようなこの青年を決して私のために散らすまい。もし、そういう羽目にもなれば、自分一人だけの所決にしようと決心しました。
 その日は私の持ちものの最後を洗い浚《ざら》い持たせてやって、金に代えさせ、珪次を存分に御馳走してやりました。

 また二日ばかり経った珪次の留守の日のこと、私は小さい土鍋で、残った蒟蒻をくつくつ煮ていました。一寸《ちょっと》書き添えたいのですが、私はどういうものか子供の時から、あの捉えどころのないような味と風体《ふうてい》で人を焦《じ》らすような蒟蒻が大好物でした。私は鉛のような憂鬱に閉されて、湯玉で蒟蒻の切れの躍るのが、土鍋の中から嘲笑《あざわら》うように感じられるので、吹き上げるのも構わず、蓋《ふた》でぐっと圧《おさ》えていました。何も食べるものの無くなった今、蒟蒻は貴重な糧食であるばかりでなく、私はどうせ餓死するなら蒟蒻ばかり食べて死のうと、こんないこじな気持ちを募らせていました。丁度その時です。
「お嬢さん
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