んと一緒にいると始終用心してなきゃならないのよ。いつ唇が飛びかかって来るか知れないから。
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 異人さんと一緒にいると我儘《わがまま》をいうのも時間制度よ。
 アンリーはあたしを燃やし尽そうとする。菜種油で自動車を動かそうとする。
 触って呉れずに愛して呉れたらねえ。
 まわりの静まった夜なんか二人差し向いで居てふいと気がつくと、おや大変異人さんと一緒にいる。と逃げ出したくなることがあるのよ。
 あなた異人さんのしょげたところ見た? まるで子供よ。
 異人さんの不器用な大股で日本の家の鴨居《かもい》に頭をぶつけないように歩るく不器用さは初めはほんとに愛嬌があるけれど見慣れて嫌になり出すととても堪らないものよ。
 異人さんはやきもちやきよ。
 あの人、海苔《のり》を食べるのを稽古し出したのよ。
 異人さんの愛情というものはくどいからすぐ腹が一ぱいになるけれども永持ちしないの。だからしょっちゅうちょいちょい食べなきゃならない。
 この頃はお豆腐を食べても舌で味い分けられなくなったわ。始終|脂《あぶら》っこいもののお相伴《しょうばん》をするせいよ。
 それでいてお豆腐の味
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