荘子
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)袍《ほう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)郊外|櫟社《れきしゃ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「女+以」、第3水準1−15−79]
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 紀元前三世紀のころ、支那では史家が戦国時代と名づけて居る時代のある年の秋、魏の都の郊外|櫟社《れきしゃ》の附近に一人の壮年=荘子が、木の葉を敷いて休んでいた。
 彼はがっちりした体に大ぶ古くなった袍《ほう》を着て、樺の皮の冠を無雑作《むぞうさ》に冠《かぶ》って居た。
 顔は鉛色を帯びて艶《つや》が無く、切れの鋭い眼には思索に疲れたものに有勝《ありが》ちなうるんだ瞳をして居た。だが、顔色に不似合な赤い唇と、ちぢれて濃い髪の毛とは彼が感情家らしいことを現わして居る。そうかと思えば強い高い鼻や岩のような額は意志的のもののようにも見える。全体からいっていろいろなものが錯綜し相剋し合っている顔だ。
 荘子の腰を下している黍畑《きびばたけ》
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