、尾佐を踏花園に訪ねて来たことがあるので、栖子は未知な間柄ではない。しかし、そんなときに遠慮深く、抒情派の文学青年のように憧憬的に少ない口数を利いたこの青年が家庭に来てくれてからは、事務的にも経済的にも驚くべき才能を発揮して、ほとんど一人で家事やこどもの世話まで切り廻してくれるのには驚嘆した。その上この青年には病的と思えるほど敏感に、女ごころの委曲に喰い入って、それにぴったり当嵌まる処置や捌《さば》きをつけてくるのには一種のもの憎ささえ感じた。時には女の始末すべきものまで彼は片付けにかかるので、栖子はいった。
「そこまでして戴《いただ》いては済みませんわ。そこまでして戴いては…………恥かしい…………あたし………」
すると千代重の深切は権柄ずくになるほど、却《かえ》って度を増すのである。
「この位なこと恥かしがることがありますか、恋愛したり、子供を産んだり、さんざん恥かしいことを平気でして来た癖に」
栖子は黙って任すより仕方がなかった。
「でも、どうして千代重さんはそんなに女のことをよく知ってらっしゃるの、不思議だわ」
「ちょうどあなたと同じようなぼんやりの従姉が、僕にありましてね。
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