檜垣の家に与え、家の名跡だけで復興さして貰い度《た》い。さすれば自分に取っては宗家への孝行となるし、あなたにしても親友への厚い志となる。「第一、貰って頂き度い娘は、檜垣に取ってたった一人の従兄弟女《いとこめ》である。これも何かのご縁ではあるまいか。」
始めこの話を伯母から切出されたときに鼈四郎は一笑に附した。あの※[#「風+陽のつくり」、第3水準1−94−7]々《ようよう》として芸術|三昧《ざんまい》に飛揚して没《う》せた親友の、音楽が済み去ったあとで余情だけは残るもののその木地《きじ》は実は空間であると同じような妙味のある片付き方で終った。その病友の生涯と死に対し、伯母の提言はあまりに月並な世俗の義理である。どう矧《は》ぎ合わしても病友の生涯の継ぎ伸ばしにはならない。伯母のいう末の娘とて自分に取り何の魅力もない。「そんなことをいったって――」鼈四郎はひょんな表情をして片手で頭を抱えるだけてあったが、伯母の説得は間がな隙《すき》がな弛《ゆる》まなかった。「あなたも東京で身を立てなさい。東京はいいところですよ」といって、鼈四郎の才能を鑑検し、急ぎ蛍雪館はじめ三四の有力な家にも小使い取り
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