ことは病主人が苦悶を深め行くにつれ却《かえ》って消えて行った。あまりの惨《いた》ましさに痺《しび》れてぽかんとなってしまった鼈四郎の脳底に違ったものが映り出した。見よ、そこに蠢《うごめ》くものは、もはやそれは生物ではない。埃及《エジプト》のカタコンブから掘出した死蝋《しろう》であるのか、西蔵《チベット》の洞窟《どうくつ》から運び出した乾酪《かんらく》の屍体《したい》であるのか、永くいのちの息吹きを絶った一つの物質である。しかも何やら律動しているところは、現代に判《わか》らない巧妙繊細な機械仕掛けが仕込まれた古代人形のようでもある。蒼黒く燻《くす》んだ古代人形はほぼ一定の律動をもって動く、くねくね、きゅーっぎゅっと※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]いて、もくんと伸び上る。頽《くずお》れて、そして絶息するようにふーむと※[#「口+奄」、第3水準1−15−6]く。同じ事が何度も繰返される。モデル娘は惨ましさに泣きかけた顔をおかしさで歪《ゆが》み返させられ、妙な顔になって袖《そで》から半分|覗《のぞ》かしている。看護婦は少し怒りを帯びた深刻な顔をして団扇《うちわ》で煽《あお》いでい
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