青く擦《す》れてなはると蔭口を利きながら、この古都の風雅の社会は、彼の前に廻《まわ》っては刺激と思い付を求めねばならなかった。彼の人気は恢復《かいふく》した。三曲の演奏にアンコールを許したり、裸体彫像に生花を配したり、ずいぶん突飛なことも彼によって示唆されたが、椅子《いす》テーブルの点茶式や、洋食を緩和して懐石の献立中に含めることや、そのときまで、一部の間にしか企てられていなかった方法を一般に流布せしめる椽《えん》の下の力持とはなった。彼は、ところどころで「先生」と呼ばれるようになった。
彼はこの勢を駆って、メーゾン檜垣に集る若い芸術家の仲間に割り込んだ。彼の高飛車と粗雑はさすがに、神経のこまかいインテリ青年たちと肌合いの合わないものがあった。彼は彼等を吹き靡《なび》け、煙に巻いたつもりでも最後に、沈黙の中で拒まれているコツン[#「コツン」に傍点]としたものを感じた。それは何とも説明し難いものではあるが彼をして現代の青年の仲間入りしようとする勇気を無雑作に取拉《とりひし》ぐ薄気味悪い力を持っていた。彼は考えざるを得なかった。
春の宵であった。檜垣の二階に、歓迎会の集りがあった。女流
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