れかといって、急にさしたる工夫もない。そんなことを考えるほど眼の前をみじめなものに感じさすだけだった。
 鼈四郎は舌打ちして、またもとのチャブ台へ首を振り向けた。懐手をして掌を宛てている胃拡張の胃が、鳩尾《みぞおち》のあたりでぐうぐうと鳴った。
「うちの奴等、何を食ってやがったんだろう」
 浅い皿の上から甘藷《いも》の煮ころばしが飯粒をつけて転げ出している。
「なんだ、いもを食ってやがる。貧弱な奴等だ」
 鼈四郎は、軽蔑し切った顔をしたけれども、ふだん家族のものには廉価なものしか食べることを許さぬ彼は、家族が自分の掟《おきて》通りにしていることに、いくらか気を取直したらしい。
「ふ、ふ、ふ、いもをどんな煮方をして食ってやがるだろう。一つ試《ため》してみてやれ」
 彼は甘藷についてる飯粒を振り払い、ぱくんと開いた口の中へ抛り込んだ。それは案外上手に煮えていた。
「こりゃ、うまいや、ばかにしとらい」
 鼈四郎は、何ともいいようのない擽《くすぐ》ったいような顔をした。
 霰を前髪のうしろに溜めて逸子が帰って来た。こどもを支えない方の手で提げて来たビール壜《びん》を二本差出した。
「さし当って
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