#「かげり」に傍点]と漂雪白の一面とが大きいスケールのむら[#「むら」に傍点]をなしてゐる。
――一面に広い大雪原である。真只中《まっただなか》を細い一筋の川――だが近よつて見ると細くはない。大河だ。大雪原の大面積が大河を細く劃《くぎ》つて見せてゐたのである。いつか私はその岸をとぼ/\と歩いてゐた。男の猟人《かりゅうど》の姿に私はなつてゐた。葦《あし》がほんのわづかその雪原にたゞそれだけの植物のかすかな影をかすかに立ててちらほらと生えてゐた。その葦を折りながら、私は鉄砲を背負つて歩いてゐた――だが、その猟人の姿はやつぱり私でなくつて直助だつたのだ。私の姿はその時どういふ恰好《かっこう》で大雪原のどの辺にゐたか知れないのだ。私にはだん/\私の姿や位置は意識されず、猟人姿の直助がのつしのつし[#「のつしのつし」に傍点]と、前こごみに歩いてゐるばかりしか眼にとまらなくなつた――が、またも私の眼に見え出したものがある。直助の歩みと同列同速力で、川のやゝ岸近に筏《いかだ》が流れてゐたのだ。筏は秩父の山奥から流れて来たものだと私は意識した。きれいに皮をはいで正確の長方形に截《き》つた楓《かえで》
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