いる可憐な人々に好意を見せ、かりにも他国人らしい警戒の素振りなど見せたことはありませんでした。その労働者達の服装も一見むさぐるしいが、よく見ればやはり独逸人の克明な清潔さがはっきり見えます。――即ち彼等の妻や娘らによって、よく洗濯されてあり、よく継ぎはぎされてあります。
 電線修繕の仕事が終りました。外はまだどんどん雪の降っているのが窓から見えます。労働者達は私が毛皮の敷物をすすめると素直にその上へ坐り、ストーヴにあたり始めました。生憎二三日来風邪をひいて居て女中は欠勤して居りました。主人はずっと向うの部屋で日本の新聞へ送る画を描き耽って居りました。私は一人でお茶を沸かして彼等にすすめました。
 ――煙草をあげましょうか、日本のたばこ。」
 と私は主人の居る方へ敷島でも採りに行こうかと立ちかかりました。するとそのなかの壮年の方が
 ――煙草はいりません。その代り日本のお嬢さん(西洋人には東洋人の年齢がわかりにくいのです)あなた日本の歌を唱って聴かせて下さい。」
 ――日本でも歌をうたいますかね、お嬢さん。」
 と老人が如何にももの軟らかに尋ねる。私は坐り直して彼等の申出を直ぐ聞き届けて
前へ 次へ
全4ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング