その頃の――明治三十年代のやや古びたおめしちりめんを想像して下さい。今の錦紗のやや軽薄めいた技巧的感触や西陣お召の厳粛性のやうな感じとは全然ちがふもつと、ち、り、め、ん、といふなまめかしさ、いとしさ、やるせなさ、優しさの含んだ純粋絹をねり[#「ねり」に傍点]にねつてしな[#「しな」に傍点]とこく[#「こく」に傍点]とをつけた布地でした。
かんこ[#「かんこ」に傍点]ちりめんといふ、これは苦労して働いた家刀自の愛のやうな感じのちりめんで、やはりその頃母の古着のなかにあつたやうに覚えてます。しぼ[#「しぼ」に傍点]がやたらに荒くつて、もめんのやうな感じの素朴なちりめん。はんてんか上つぱりにし度いやうな細い縞が藍色がゝつたサラサ模様であつたやうです。
私の三歳、五歳の祝ひ着は今の芝居のうちかけで見るやうな花蝶総縫ひのちりめんに下着を赤のゑぼしちりめんといふので重ねてありました。しぼ[#「しぼ」に傍点]がゑぼしの折りのやうに高く立つてゐるからゑぼしちりめんなのださうです。
あついた[#「あついた」に傍点]ちりめんといふのは私の女学校時代の学期の合間に着せられる着物についた帯地のちりめんで
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