か分りませんが、二人が自分の名を自分で覚える頃には二人ともその育つ姿や生活に相応する――即《すなわ》ちおとうさんは女にふさはしく、おかあさんは男らしい呼名に都合よくなつて居ました。越して行く先から先の近所の人達も当然それを怪しみもせず、おとうさんを女の児《こ》扱ひにし、おかあさんを男の児と見做《みな》して仕舞ひました。二人の母親は、二人ともつつましく行儀よく出来てゐる女同志で、自分の子たちもさういふしつけの宜《よ》い育て方をしましたので、二人の子達も子供らしい遊びもいたづらも相当に仕《し》て居乍《いなが》らよく子供に有《あり》がちな肉体的な暴露などはありませんでした。さうして育つて行くうちにも仲好しの母親同志は越す先々の家を成《なる》たけ近所同志にえらび、お互ひの生活を接近させてゐました。が、自分達の合議の上で女を男に、男を女に、と取換へつこに育て上げつつある自分達の世間はづれた事業が苦もなく成功して行くのを不思議がりもせず、別に得意にもしなかつたせゐか、しまひにはお互ひ同志ばかりがどんなに人と離れて接近し合つて居る場合でも、それを得意がつたりして談《はな》し合ふことも無い様子でした。
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