なが》ら機業工場なんか始めた。大分具合ひは宜《よ》かつたがもともと資本はひと[#「ひと」に傍点]から借りた。貸した人があとでおかあさんを義理で縛つた爺《じい》さんよ。と云つても爺さんは決して悪人では無い。ただ昔武人だつた丈《だけ》に冒険|癖《へき》があつたが本性はむしろ善良だつた位だ。それで却《かえ》つてこちらから義理を迎へて縛られてしまつたやうなわけだ。義理も強《し》ひられたのはまだそこから逃げ宜《よ》いよ。なんと云つたつて迎へた義理は自分で造つた罠《わな》へ自分で罹《かか》つたも同じだよ。つまり罠の仕組みを知れば知る程、知らない仕組みにかゝつたやうに無茶に逃げ出す力が出ないからな。ところでその爺《じい》さんがおかあさんの武者振《むしゃぶ》りには他には類の無い裏にデリケートな処がある。つまり一遍の武辺《ぶへん》では無いと見て取つたとでも云はうかな。はははは……(しまつた今度はわしが笑つた)でも本性が女だからな、云はばまあ、その方が当り前の事だ。デリケートな裏の方が本当で、表の武威がむしろ借り物なのだ。しかし、わしがあでやかな娘姿であつたと同じやうにおかあさんにしても、どうせ女として生
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