て行くがよい。わしは汚ない年寄りじゃものなあ』
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(おくみ、びっくりして、それが蓮如上人だと判ると、がばと突き伏す)
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おくみ『まあ、お上人さま。わたくしは恥しゅうて顔もあげられませぬ。お人の悪いお上人さま。立聴きなぞなされて』
蓮如『は、は、は、は、まあ、そう恥しがらんでもよい。恋も因縁ずく。勧めもせられん代りに障《さまた》げもせられん。ただ忘れてならぬのは六字の名号《みょうごう》じゃぞよ』
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(おくみ、起上って合掌)
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おくみ『お慈悲は身に染みて身体が浮くようでございます。然《しか》しその御名号が唱《とな》えられぬばっかりに、一度お上人さまにお目にかかってお教えを頂こうと存じましてお探し申して居りました』
蓮如『ふむ、それは気の毒とも何ともはや、さては信心退転でもいたしたか』
おくみ『退転どころではござりませぬ。父母に死なれたたった一人の孤児。お念仏は父母の遺身《かたみ》でもあればまた、わたくしの浮世
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