鸞どのもいたわしゅう思召《おぼしめ》されていらるるだろう。それ、各僧、源右衛門の背に負わしてやられよ』
法師一同『畏《かしこま》りました』
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(此の時おくみは跣足《はだし》で先に、蓮如上人は駕《かご》に乗り、取るものも取りあえぬ形で花道を駈けつけて来る)
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おくみ(源右衛門に取りついて)『もうし、ととさん、こちの人はどうしやさんした』
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(源右衛門、親鸞聖人の木像を背負いつつ、顔をそむけて、うつ向く。)
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おくみ『黙っていなさるは心がかり。早う教えて下さりませ』
源右衛門『これ嫁女、源兵衛はな』
おくみ『源兵衛さんは?』
源右衛門『それ、そこじゃ』(顎にて袖の千切れに包まれし首を示し、涙をはらはらと落す。)
おくみ(袖の首を取上げて)『やっぱり覚悟の通りにならしゃんしたか。ととさんと一緒に旅立ちの様子がおかしいと、直ぐそのあとでかかさんを攻め詰《なじ》って漸《よう》よう訊いた事の仔細。それから山科の御坊に
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