片方の眼を庇って、部屋の瓦斯《ガス》の灯にも青年の方にも、斜に俯向《うつむ》き加減に首を傾げたが、開いた方の眼では悪びれず、まともに青年の方を瞠《みつ》めた。
「それではなにも、男女でなくてもいいのじゃございません? 友人なり師弟なり、感情の素朴な性質の者同志なら」こうは答えたもののかの女は、青年の持ち出したこの問題にこの上深く会話を進み入らせる興味はなかった。ただこんなことを云っているうちに、この青年の性格なり気持ちがだんだん判明して来るだろうことに望をかけていた。「こんなことを女性に向って云い出す青年は、どういうものか」すると青年は、内懐にしていた片手を襟から出し片頬に当てていかにも屈托らしく云った。かの女のあまり好かないこんな自堕落らしい様子をしても、この青年は下品にも廃頽《はいたい》的にも見えない。この青年の美貌と、蘂《ずい》に透った寂寞感が、むしろ上品に青年の態度や雰囲気をひきしめているのかも知れない。
「やっぱり異性同志に、そういった種類の交際を望むのです。少くとも僕は」
 それからしばらくして
「でないと僕は寂しいんです」
 唐突でまるで独言のような沈鬱な言葉の調子だ。か
前へ 次へ
全19ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング