をまじまじ見ているのだった。私は見られていると意識するときに、ちょっとてれた[#「てれた」に傍点]気持もしないではないが、然しまるで草木のような感じしかない少女が一人、傍にいたとて別に気分の障《さわ》りにはならなかった。

 私はその頃、ダルクローズの舞踊体操に凝《こ》っていた。で、仕事に疲れて来ると忽《たちま》ち室内着を脱ぎ捨てスポーツシャツ一枚の姿で縁側でトレーニングをやった。私の肉体は相当鍛えられていたから四肢の活躍につれ、私の股や腕にギリシャの彫刻に見るような筋肉の房が現われた。私自身自分の女の肉体に青年のような筋肉の隆起が現われることに神秘的な興味を持ったのだが、気がつくと、これに瞠《みい》っている少女の瞳は燃ゆるようだった。彼女は見つめて三昧《さんまい》に入り、ぶるぶると身ぶるいさえすることがあった。私はこれを思春期の変態の現われじゃないかと嫌な気がしたが、そうではないらしかった。健康なものを見て、眼から生気を吸い込もうとする衰亡の人間の必死の本能だった。私が運動を終ると、あえぐものが水を飲んだときのように彼女は咽喉を一つ鳴らし「もうもう本当にいい気持でしたわ」と襟元《えり
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