其の来歴を少しでも知る人々に特種な空想と異様な緊張を与えるのだが、通りすがりの人に取っても、正確に一間|隔《お》き位いにつっ立って居る白樺の木立ちの物淋しい感じや、なんの変哲も無く一段と低くなった長方形の地面が、どういう場合に使った跡か一寸解し兼ねる処に、何んとなく恐ろしいような物珍らしさが手伝って我れ知らずじっと見入るように引きつけられるのであった。
此の決闘場へ近づいて来た三人組があった。
女一人に男二人、三人の互に異なった若い活気のため片輪のように何かぴったりしない組合せであった。真中に挟まれて女は何もかも可なりゆがんでしまって居た。頭も顔も体も、心までもゆがんでいた。ゆがんだ儘、女は二人の男を左右にくっつけてふらつくように歩いて来た。
二人の男達は、ロンドン大学の学生であった。ジョーンの方は人のよさそうな、少し鈍重な感じがする男であった。彼は真中の女に左腕を組まれて居た。金髪は彼の四角い頭を柔かく包んで居た。碧色の瞳は何処と信って確《し》っかり見詰めないような平静な光りを漾《ただ》よわせて居る。が、時折り突き入るように尖《とが》ってきらめくこともある。金色の粉を吹いたような産毛《うぶげ》が淡紅色の調《ととの》った顔をうずめて居る。
彼は中背で小肥りの体を、金髪に調和する褐色のツウィードの服で包んで居る。時々女のおどけた調子に、にやにや白歯を出して微笑しながら、ジョーンは体を真直ぐにして歩るいて行く。
ワルトンは丈《たけ》の高い痩型の青年だ。如何にもきびきびした学生らしく、ニッカーボッカーを穿《は》いて居る。女を自分|許《ばか》りのものだと引っ張り寄せるように右腕で女の左腕を抱き寄せて居るが、女はそれがまんざらでもないらしくあしらい乍《なが》ら強《し》いて彼に引き寄せられまいとしてジョーンの左腕にすがって居るようにも見える。
ワルトンは、栗色の髪を油でこてこてにした頭を、女の顔にぶっつかる程突き出して、褐色の瞳を小賢《こざ》かしく、女の瞳に向き合せながら、幾分細長い顔にちょいちょい小皺を寄せる。彼は女に話しかけるのに夢中である。従って彼のニッカーボッカーを穿いた両脚は勝手に動いて奇術師のようにふらふら調子を取りながら時々小石や小径のふちの雑草の根本に躓《つま》ずいて妙に曲る。
異った二人の男に左右から挟まれて歩いて居た女アイリスは、急に二人を意地
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