まさぐつて見る花の姿、何といふデリカで秘密な感触の歓びであらう。==花には見るものゝホルモン線を芸術的に刺戟する作用がある。(だから私は若いのだらうかと桂子は思ふ)==茲でこの小説の作者は東洋の古い経典に花を説明して、「それは人生のあらゆる苦難を忍んで理想の種子を養ひ育て、やがてそこに開敷する完成の人格を宇宙が植物に於て象徴されたものだ」また一花を愛することは未就身が無意識に於て成就身を嘆慕することである」と書いてあつたのを、桂子が花に対する註解に付記する。そして、更に、また桂子自身の「たとへ小米の花の一輪にだに全樹草の性格なり荷担の生命を表現してゐる。地中のあらゆる汚穢を悉く自己に資する摂取として地上陽下に燦たる香彩を開く、その逞しき生命力。花は勁し」といふ主観をも書き足して置く。
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さて、いよ/\桂子の花で描いた絵の公開展である。それはQ――芸館の階上階下、全部の室々を当てゝ開展されたのである。
その主なるものを茲に紹介すれば、
階下==玄関衝立代りとして、漆塗り大船型の器に截り据ゑた松の大幹、その枝々に揺れる藤浪。マホガニイ、白真鍮、鼠色大理石の
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