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 小田島はすこしてれ[#「てれ」に傍点]た様子で手を止めず、ぐいぐいグラスを呑み干すので、女はいくらか気を呑まれて呆然と見て居た。が、やがて椅子を離れてしょんぼり着物を着初めた。
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――まあ宜いだろう。折角喰べかけたご飯だけでも喰べてからにしたら。
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 斯う云う小田島に女は何の返事もし無いで、すっかり着物を着てしまい、髪も手早く直した。そして小田島の傍に来て手を差し出した。
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――如何《どう》したと云うんだい。あんまりおとなしくなり過ぎたじゃ無いか。
――すっかり判ってるのよ。イベットが追付けこの部屋へ来るんでしょ。そしてこの部屋の女王になるんでしょう。その時まであたしがこの部屋に残っていたら、あたしあいつにどんな憎しみを持って居ても、腰元の様に愛想よく使われなけりゃならないから。
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 小田島は少し驚いた。イベットがこの部屋へ来ることをこの女がどうして知って居るのだろう。
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――
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