《そっけ》無さが露骨に現われて居たが、さすがに無雑作に物を喰べて口紅をよごさない用心が小田島に少し可哀相に思えた。カキモチも宜《よ》い加減喰べると
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――フランスの女はね。自殺する間際まで喰べものの事を考えて居るのよ。男には失恋しても喰物には絶対に失恋し度くないのよ。
[#ここで字下げ終わり]
女はこんな訳の分らぬことを云ってますます憐《あわれ》っぽくしおれかかる。
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――わたし今夜ご飯喰べられないのよ。あんた晩ご飯おごってよ。あたし払いが出来なくなって、おっ払われたんだから独じゃこのホテルの食堂へは入れないのよ。
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小田島は絶体絶命という気がした。
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――じゃ、まあ、僕と一緒に来給え。
[#ここで字下げ終わり]
すると女は急にあたりまえだという顔をしてずんずん先に立って食堂へは入って来て仕舞ったのだ。
女は座席に即《つ》くと悠々小田島のシガレットケースから煙草《たばこ》を抽《ひ》き出してふかし始めた。そして胡散臭《うさんく
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