んか着てね、「甲野さんのようなプロレタリア文学家と私のような小説家と、どっちが世の中の為《た》めになるかってこと考えて御覧《ごらん》なさい。世の中には食えない人より食える人の方がずっと多いのだから、私の小説は、その食える人の方の読者の為めに書いてるんだ。」と、斯《こ》うですよ。は、は、は、は。
かの女は、華美でも洗練されて居《い》るし、我儘《わがまま》でも卒直《そっちょく》な戸崎夫人の噂《うわ》さは不愉快《ふゆかい》でなかった。そういう甲野氏も僻《ひが》み易《やす》いに似ず、ずかずか言われる戸崎夫人をちょいちょい尋《たず》ねるらしかった。
――あなたの噂《うわさ》も出ましたよ。あなたをたんと褒《ほ》めて居たが、おしまいが好《い》いや、――だけどあの方あんなに息子の事ばかり思ってんのが気が知れないって。
かの女はぷっと吹き出してしまった。かの女は子を持たない戸崎夫人が、猫、犬、小鳥、豆猿と、おおよそ小面倒な飼い者を体の周りにまつわり付けて暮らして居る姿を思い出したからである。
底本:「愛よ、愛」メタローグ
1999(平成11)年5月8日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの
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