やいば》型に刺し、その区切りの中間から見透《みとお》す空の色を一種の魔性《ましょう》に見せながら、その性全体に於《おい》ては茫漠《ぼうばく》とした虚無を示して十年の変遷《へんせん》のうちに根気《こんき》よく立っている。かの女は伊太利《イタリア》の旅で見た羅馬《ローマ》の丘上のネロ皇帝宮殿の廃墟《はいきょ》を思い出した。恐らく日本の廃園《はいえん》に斯《こ》うまで彼処《あそこ》に似た処《ところ》は他には無かろう。
廃墟は廃墟としての命もちつゝ羅馬市の空に聳《そび》えてとこしへなるべし。
かの女は自分が彼処《あそこ》をうたった歌を思い出して居《い》た。
と、何処《どこ》か見当の付かぬ処で、大きなおなら[#「おなら」に傍点]の音がした。かの女の引締《ひきし》まって居た気持を、急に飄々《ひょうひょう》とさせるような空漠《くうばく》とした音であった。
――パパ、聞こえた?
逸作とかの女は不意に笑った顔を見合わせて居たのだ。
――墓地のなかね。
――うん。
逸作はあたりまえだと言う顔に戻って居る。
――墓地のなかでおなら[#「おなら」に傍点]する人、どう思うの。
かの女は逸作
前へ
次へ
全34ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング