立つかんな[#「かんな」に傍点]やしおらしい夏草を供《そな》えた新古の墓石や墓標が入り交って人々の生前と死後との境に、幾ばくかの主張を見せているようだ。尠《すく》なくともかの女にはそう感じられ、ささやかな竹垣や、厳《いか》めしい石垣、格子《こうし》のカナメ垣の墓囲いも、人間の小さい、いじらしい生前と死後との境を何か意味するように見える。
――生きて居《い》るものに取っては、茲《ここ》が、死人の行った道の入口のような気がして、お墓はやっぱりあった方が宜《よ》いのね。
――そうかな、僕ぁ斯《こ》んなもの面倒くさいな。死んだら灰にして海の上へでも飛行機でばら撒《ま》いてもらった方が気持が好《い》いな。
いつか墓地の奥へ二人は来て居た。
――どれ見せな。
――息子の手紙? 執念深く見度《みた》がるのね。
――お墓の問題よりその方が僕にゃ先きだ。
其処《そこ》に転《ころ》がっている自然石の端《はし》と端へ二人は腰を下ろした。夏の朝の太陽が、意地悪に底冷《そこび》えのする石の肌をほんのりと温《あたた》め和《なご》めていた。二人は安気《あんき》にゆっくり腰を下ろして居《い》られた。うむ
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