おせっかい夫人
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)手際《てぎわ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぼけ[#「ぼけ」に傍点]
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午前十一時半から十二時ちょっと過ぎまでの出来事です。うらうらと晴れた春の日の暖気に誘われて花子夫人は三時間も前に主人を送り出した門前へまたも出て見ました。糸目の艶をはっきりたてた手際《てぎわ》の好い刺繍《ししゅう》です。そこに隣家国枝さんとの境の垣に金紅色の蕾《つぼみ》を寄り合わせ盛り合わせているぼけ[#「ぼけ」に傍点]の枝は――だが、その蔭にうろうろしていたのは可愛ゆいカナリヤの雛《ひな》ではありませんでした。黒っぽくぼやけた四十男でした。
「私、国枝の親類の者ですが、至急旅に立ちますのに必要なものをこの家に預けて置いたのですが留守《るす》で困っております」
若くて気の好い、そしてかなりおせっかいな花子夫人が、国枝さん一家が今朝から中野の知人へ出かけたことを知っていたのですからたまりません。国枝さんの嫁さんと姑《しゅうとめ》さんが出かける時、厳重に鍵を利かせて置いた戸締りの何処か
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