字上げ]8. ※[#ローマ数字7、1−13−27] 16

 第一篇

  哀憐

別れて後《のち》は、
永く哀憐の涙をこぼす。

別れ路《みち》にはうまごやしが
咲いてゐた。

その花の面影は
何時も黒い頭巾《づきん》をかぶつた尼僧《あま》の影、

日が曇ればそのあたり、
灰色の霰がしづかに走り、

日が照れば目に見えず、
昨日《きのふ》の雪は消えてゆく。
[#地から1字上げ]2 ※[#ローマ数字10、1−13−30]

  風見の鷄

風にせはしい風見《かざみ》の鷄《とり》、
草間《くさま》には赤い影《かげ》這ふ壞《くづ》れ屋に、
オランダ服の十歳《とを》ばかりの子が、
はねだま草のつやつやしい
あのつやつやしい黒い珠《たま》に
脣つぐむ氣のほそり。

風見の鷄はせはしくも、
金具《かなぐ》のペタルに明るい冬の日を、
一日おくる遠い遠い風。
さびしくも散歩して、
吹いてゆく風を思へば、
めまぐるしい金具の鷄、
あの金具の鷄!
[#地から1字上げ]5 ※[#ローマ数字1、1−13−21] 5.

  幸福の日

何時でも謂ひ知らぬ惱ましい日はゆく、
幸福は古ぼけた鉛人形のやうに、思ひ
前へ 次へ
全39ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福士 幸次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング