一々ついて離れず進んで來たものであるから、今として見ればその時々の自分の心理に立入つて考へることが出來、又その心理全體を突き貫く自分の心の祕奧、即ち自分の生れると共に持つて來た生の欲求も明示することが出來る。自分は今此の詩全體を生ませるに至つた自分の此の潜流を此の序文であらはにしようと思ふ。
一體自分は二十一の年初めて詩を書いた。それが此の詩集の初めにある『白の微動』である。尤もその前に四五回子供の時から書いたことはあるが格別書きたいと思ふやうな事はなく、寧ろ書きたいとすれば自分の頭は小説に傾いてゐた。それが卒然として或る刺※[#「卓+戈」、211−中−4]から詩を書き初めた。或る刺※[#「卓+戈」、211−中−5]とは當時日本の詩壇に起つた自由詩の運動とそれに連れて現はれた多くの諸君の作品である。特にその中でも自由詩社のパンフレツトに出てゐる福田君の『ツワイライト』三富君の詩幾篇かは僕の今迄眠り潜んで居た魂を前者は猛然と喚び醒まし、後者は底の知れない憂鬱へ驅り込んだ。自分は數ヶ月來その讀んだ印象が離れなかつた。寢ても起きても人に逢つても往來端を歩いてもその詩の暗い興奮、冷却した情熱
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