、祝福を降しつゝ飛翔してお出になると云ふことは、わたしの疑はない所である。」
 スタニスラウスは努力と感動との為めに疲労して、腰を椅子の上に卸した。その癖腰を卸すとたんに、燕尾服の長い裾を丁寧に左右に開くことは忘れなかつたのである。
 スタニスラウスは兄の葬式の日に大抵右の演説と同じ文句の演説をした。それからは毎年年忌の回数を取り換へる丈である。併し一年に一度しか使はない詞だから、割合に古びずにゐる。その上スタニスラウスは一語毎に先づ塵払で払つて、一応|捏《こ》ね直して口から出すやうにしてゐるのである。
 一同起立して杯を打ち合せた。その杯を持つた手を出すにも、一人々々身分相応に控目にして出すのである。
 それが済んだ時、色の蒼いフリイデリイケが劇《はげ》しい咳をしながら云つた。「あの、お父う様はどちらの方の椅子に掛けてゐてお亡くなりなさいましたの。」そして目を半分開いて、椅子の二つ並んでゐる隅を見た。
 女主人イレエネは、そんな事を今問ふのは不都合だと思ふらしく、肩を聳かした。
 スタニスラウスはまだ感動から蘇つてゐない。
 少佐夫人は生憎《あいにく》口に一ぱい物を頬張つて噬《か》ん
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