りますか。
森。いいえ。外には絶板になっているのと雑誌に出た一幕物《ひとまくもの》と二つあるばかりです。どれも側《はた》から失敗の作だと云ったので、作者も跡を作らないのでしょう。しかし生意気な事を言うようですが、家常茶飯は成功の作かも知れないと思います。
記者。何故《なぜ》失敗だと云ったのでしょう。
森。ドラマチカルでないと云うのですよ。そりゃあヘッベルの作やなんぞを見る標準で見られては駄目でしよう。イブセンのような細工もありません。しかし底には幾多の幻怪なものが潜んでいる大海の面《おもて》に、可哀らしい小々波《さざなみ》がうねっているように思われますね。
記老。そんな作ですか。一体家常茶飯というのはどういうわけですか。
森。原語は日常生活です。しかしそう云っては生硬になるのが嫌《いや》です。家常茶飯と云うと、また套語《とうご》の嫌《きらい》がある。それでも生硬なのよりは増《まし》だと思うのは、私だけの趣味なのです。もっと優しい、可哀らしい、平易な題が欲しいのですが、見附《みつ》かりませんでした。
記者。この脚本に対する批評は伺われませんか。
森。それはしたくありませんね。しかしただ一
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