目だし。
令嬢。いいえ。なんでも宜しゅうございますから言って御覧なさいましよ。
画家。ただ一しょになっていたのだろうというのです。
令嬢。ここにでございますか。
画家。それはここでも好いし、どこか外《ほか》へ行ったら、猶《なお》好いでしょう。あなたのおばさんが喧《やかま》しそうですから。
令嬢。まあ。結婚も致さずに、ただ何がなしに御一しょにいるのでございますね。
画家。そうです。何がなしにです。そら。外の絵かきもやっているでしょう。(令嬢笑う。画家黙りて相手の顔を、何故《なにゆえ》笑うかと問いたげに見る。令嬢いよいよ笑う。)何がそんなに可笑《おか》しいのですか。
令嬢。それでも、そんな風な生活は、もうとっくに因襲になってしまっているじゃあございませんか。
画家。それでも。因襲といったって。
令嬢。ええ、ええ。同じ因襲でも、一般の社会での因襲でなくって、ある狭い仲間内での因襲でございましょう。しかし因襲は因襲でございますから、狭い仲間内の因襲だからと申しましても、特別に好いはずはないではございますまいか。そんな風に致しましたら、わたくしはやっぱり段々に扮装《みなり》なんぞは構わなくなりま
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