協った尺度を当てるのですね。
令嬢。それは一つか二つか、三つ位までの出来事には無意識に当てた尺度が丁度好いという事もあるのでございましょう。しかし幾ら手本無しに生活すると申《もうし》ましても、そういう人でございましても、どうせ生々《ういうい》しいのでございましょうから、何事かに出合まして、五つや六つの調子を覚えましても、それから先は分りませんから、その五つか六つの調子をあらゆるものに当て嵌める事になってしまうのでございましょう。人生に応ずるには幾千の調子が入《い》るか知れないのでございます。そこで一つ間違を致しますと、そういう人は慌てまして、きっとこれまでに覚えている因襲の内の、一番現在の場合に当嵌りそうなのを持って来て、それを応用しようと致すのでございましょう。(間。)あなたのお身の上で申して見ますれば、あなたはわたくしと結婚あそばしたのでございましょう。
画家。(正直に驚きたる様子。)いや。結婚なぞをする積《つもり》ではなかったのです。
令嬢。結婚はなさらなかったのでございますの。そんならどうあそばすはずでございましたの。
画家。そりゃあ。(間。)そうですね。そんな事をいったって駄
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