内に現われたる怪訝《かいが》、恐怖を排し去らんとする如く、拒む手付を為して。)御覧なさいまし。只今《ただいま》のあなたの恐しくお思いあそばす、そのお心持《こころもち》が、丁度昨晩のわたくしの心持と同じなのでございますよ。丁度只今のあなたのように、昨晩はわたくしが恐しく存じましたの。
画家。(張《はり》のなき声にて、ようよう。)恐しく。
令嬢。ええ。恐しゅうございました。あなたが少しもお立ち留りなさらずに、わたくしを引き摩《ず》って、空《そら》を翔《か》けるような生活の真中《まんなか》へ駈込んでおしまいなさったのですもの。過去も、現在も、未来も一しょになって分らないような生活の中へ、燃え上っている大きな焔《ほのお》の中の薪《たきぎ》のように、わたくしはあなたが用捨《ようしゃ》もなく、未来に残して置かねばならないはずの生活までを、ただ一刹那《いっせつな》の中に込めて、消費しておしまいなさるのを、どんなにか惜く思いまして、あなたのお手に縋《すが》ってお留《と》め申したいように存じましたが、致し方がございませんでした。わたくしの心持では、こう申したいのでございました。まあお待ち下さいまし。ここ
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