致すと思召《おぼしめ》していらっしゃいましたの。
画家。どうすると言ったって知れているではありませんか。あなただって同じ事でしょう。
令嬢。わたくしには分っていますの。ただ伺いたいのは、あなたがどう思っていらっしゃったかという事でございますの。
画家。わたしはただ今日から二人の生涯が始まると予期していたばかりです。
令嬢。その始まる生涯と仰ゃるのは。
画家。あなたとわたくしとの、これから渡って行く生涯です。
令嬢。おや。それではあなたはもう一遍二人の生涯を生きて見ようと仰ゃいますのでございますか。
画家。なるほど。そういえば、きのう一つの生涯を送ったと見做《みな》せば見做されない事はないでしょう。もしきのう一つの生涯が済んだなら、その済んだ生涯を続けて、押し広めて行かなくてはならないでしょう。それが本当に生きるというものでしょう。
令嬢。まあ。もう一|度《ど》生きられるものだと思召していらっしゃるの。
画家。(一歩退く。)ふん。どう思っておいでなのですか。
令嬢。でも二人が生涯にする程の事は、何もかもきのう致してしまったのではございますまいか。(画家は相手を凝視しいる。令嬢は相手の目の
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