)そうだろう。好くは分るまいな。己が無暗《むやみ》に饒舌《しゃべ》るから。しかし己はきのうの工合を自分の口でいって見て、その詞を自分の耳に聞いて見たいのだ。お前がそこで聴いていてくれなくても、己は一人で饒舌《しゃべ》りたい位なものだ。
モデル。(悲し気に。)それではわたしが承《うけたまわ》っていましても、お邪魔にだけは成りませんのね。
画家。なになに。(何か深く思うらしく。)そんな風に平和のままで相手の人間に近付くと、どの位の利益があるか分るかい。そういう時でなくっては、相手の人間の真実の処は分らないのだ。
モデル。真実の処ですって。
画家。そうさ。その人を買被《かいかぶ》ったり、見そこなったりしないで。
モデル。(何か物を思うらしく。)そうでこざいましょうとも。(詞急に。)そんな時にお感じになった事は間違いこはないと思っていらっしゃいますの。
画家。間違いこはないとも。きのう出し抜けに話合ったのを、お互に自然のように思うのと同じ事で、これから先一しょに生活して行く事をもお互に自然のように思うに違ない。
モデル。(驚《おどろき》を自《みずか》ら抑えて、詞急に。)そして、そのお嬢さんもあ
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