々な準備が、支度が入《い》るものなのだ。初めの内は誤解もするし、怒《おこ》るような事もあるし、場合に依《よ》っては誰《たれ》か死ななくては目ざす人に近寄られないというような事さえある。人の心に取入るには、強盗に這入るような事をしなくてはならない。人の防禦《ぼうぎょ》しない折を狙《ねら》っていて、奇襲をやらなくちゃあならない事もある。どうかしたわけで、先方が門の戸を開けているのを見計らって、そこへ急に、乱暴に闖入《ちんにゅう》しなくちゃあならない。それにきのうなんぞの工合といったらないのだ。門戸は十字に開いてある。そこへ己が飛込んだのだ。そして。(娘の方を見る。)何か言ったのかい。
モデル。いいえ。そんな事がございましたら、どんなにか嬉しい事でしょうね。
画家。そりゃあ嬉しいさ。平然として人の腹の中に這入って行くのだ。風雨を冒して、冒険的に近付くのではない。平和のままで這入って行くのだ。自然にそうなくてはならないような工合に、青天白日に這入って行ったのだ。
モデル。へえ。
画家。分るかい。
モデル。(無理に微笑む。)少しはお察し申す事が出来ますの。
画家。(微笑む。さて、うっとりとして。
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