しょにいる処を想像するのは、わたし共と一しょというわけではなくって、誰か外の人と一しょにいるような夢を見ているのではあるまいかね。
画家。(驚きたる様子。)姉さん達と一しょでなくって、誰と一しょにいる事が出来るでしょうか。
姉。それはお前はお前で因襲の外《ほか》の関係が出来るかも知れないじゃないか。
画家。(手にて拒む如き振《ふり》を為《な》し、暫く間《ま》を置き、温かに。)僕は幾らか姉さんの助《たすけ》になりたいと思うのです。
姉。(甚だ意外に思うらしき様子。)何んですって。わたしを助けるのですって。
画家。でも姉さんが、朝から晩までおっ母さんに付いていて世話をするのは、随分苦しいでしょう。長年の事だから。何んでも年寄というものは、どんなに世話をしても、それを難有《ありがた》いなんぞと思ってはくれないものです。それに病気ででもあると癇癪《かんしゃく》を起して無理な事もいうでしょう。随分つらかろうと、僕だって察していますよ。
姉。お前がそうお言いなら、わたしは打明けてお前に言いましょうがね。実はわたしがおっ母さんの世話をするのも、因襲の外《ほか》の関係なので、わたしは生涯をその関係に委《ゆだ》ねたというものかも知れませんよ。(画家不審らしき顔をなす。姉は沈みたる調子にて言い続く。)実はね。おっ母さんというものには、とうに別れてしまったかも知れないのですよ。そしてわたしはある縁のない人に出くわしたのね。その人が人手を借《か》らなくってはどうする事も出来ない、可哀相《かわいそう》な人だもんだから、わたしはその人に世話をしてやって、その人のためには、わたしがいなくなっては、どうもならないような工合になったのね。晩方《ばんかた》に窓掛を締めてやれば、その人のためには夜になり、午前《ひるまえ》に窓の鎧戸《よろいど》を明けてやれば、その人のためには朝になるでしょう。物を喰《た》べさせるのも、薬を飲ませるのもみんなわたしの手でするのでしょう。わたしの本を読んで聞かせる声に賺《すか》されて、寝る時は寝るでしょう。そういう風にその可哀相な人はわたしに便《たよ》るのだから、わたしはまたその人の助《たすけ》になるのを自分の為事にしているのです。それが今お前に言われて見れば、わたしのおっ母さんなのね。
画家。(姉の方《かた》へ手を差伸べて温かに。)ええ、それがお互のおっ母さんだというわけで
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