奎吉
梶井基次郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)當然な經緯《いきさつ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)もうこ[#「こ」に「(ママ)」の注記]うなれば
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「たうとう弟にまで金を借りる樣になつたかなあ。」と奎吉は、一度思ひついたら最後の後悔の幕迄行つて見なければ得心の出來なくなる、いつもの彼の盲目的な欲望がむらむらと高まつて來るのを感じながら思つた。
彼にとつてはもうこ[#「こ」に「(ママ)」の注記]うなればその醜い欲望が勝を占めてしまふに違ひなかつた。彼は彼で祕かにそれを見越して、それを拒否する意志の働くのを斷念する傾きが出來てゐたのだつた。
彼は今金がつかんで見度くて堪らないのであつた。然し正當の手段でそれをこしらへるめど[#「めど」に傍点]は周圍のどこにもなかつた。
彼は兩親から金を持つことを許されてゐないのであつた。どうして奎吉がそんな破目になつたかと云へば、それは彼の樣な性格の人間には當然な經緯《いきさつ》の結果なのである。
――彼は二度續けて落第したため、最近迄籍をおいてゐた高等學校を追はれた。
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