であった。Eから乗るとTで乗換えをする。そのTへゆくまでがMからだとEからの二倍も三倍もの時間がかかるのであった。電車はEとTとの間を単線で往復している。閑《のどか》な線で、発車するまでの間を、車掌がその辺の子供と巫山戯《ふざけ》ていたり、ポールの向きを変えるのに子供達が引張らせてもらったりなどしている。事故などは少いでしょうと訊《き》くと、いやこれで案外多いのです。往来を走っているのは割合い少いものですが、など車掌は言っていた。汽車のように枕木の上にレールが並べてあって、踏切などをつけた、電車だけの道なのであった。
 窓からは線路に沿った家々の内部《なか》が見えた。破屋《あばらや》というのではないが、とりわけて見ようというような立派な家では勿論《もちろん》なかった。しかし人の家の内部というものにはなにか心|惹《ひ》かれる風情《ふぜい》といったようなものが感じられる。窓から外を眺め勝ちな自分は、ある日その沿道に二本のうつぎ[#「うつぎ」に傍点]を見つけた。
 自分は中学の時使った粗末な検索表と首っ引で、その時分家の近くの原っぱや雑木林へ卯《う》の花を捜しに行っていた。白い花の傍へ行って
前へ 次へ
全9ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
梶井 基次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング