泥濘
梶井基次郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)為替《かわせ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)病気|染《じ》みた
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)それ[#「それ」に傍点]以上に
−−
一
それはある日の事だった。――
待っていた為替《かわせ》が家から届いたので、それを金に替えかたがた本郷へ出ることにした。
雪の降ったあとで郊外に住んでいる自分にはその雪解けが億劫《おっくう》なのであったが、金は待っていた金なので関《かま》わずに出かけることにした。
それより前、自分はかなり根《こん》をつめて書いたものを失敗に終わらしていた。失敗はとにかくとして、その失敗の仕方の変に病的だったことがその後の生活にまでよくない影響を与えていた。そんな訳で自分は何かに気持の転換を求めていた。金がなくなっていたので出歩くにも出歩けなかった。そこへ家から送ってくれた為替にどうしたことか不備なところがあって、それを送り返し、自分はなおさら不愉快になって、四日ほど待っていたのだった。その日に着いた為替はその二度
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