るといういつも午後ばかりの国――それが私には想像された。
 雲はその平地の向うの果である雑木山の上に横《よこ》たわっていた。雑木山では絶えず杜鵑《ほととぎす》が鳴いていた。その麓《ふもと》に水車が光っているばかりで、眼に見えて動くものはなく、うらうらと晩春の日が照り渡っている野山には静かな懶《ものう》さばかりが感じられた。そして雲はなにかそうした安逸の非運を悲しんでいるかのように思われるのだった。
 私は眼を溪《たに》の方の眺めへ移した。私の眼の下ではこの半島の中心の山彙《さんい》からわけ出て来た二つの溪が落合っていた。二つの溪の間へ楔子《くさび》のように立っている山と、前方を屏風《びょうぶ》のように塞《ふさ》いでいる山との間には、一つの溪をその上流へかけて十二|単衣《ひとえ》のような山褶《やまひだ》が交互に重なっていた。そしてその涯《はて》には一本の巨大な枯木をその巓《いただき》に持っている、そしてそのためにことさら感情を高めて見える一つの山が聳《そび》えていた。日は毎日二つの溪を渡ってその山へ落ちてゆくのだったが、午後早い日は今やっと一つの溪を渡ったばかりで、溪と溪との間に立ってい
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