しの上は××の屋敷だったと思った。
 小時《しばらく》歩いていると今度は田舎道だった。邸宅などの気配はなかった。やはり切り崩された赤土のなかからにょきにょき女の腿《もも》が生えていた。
「○○の木などあるはずがない。何なんだろう?」
 いつか友人は傍にいなくなっていた。――
 行一はそこに立ち、今朝の夢がまだ生《なま》なましているのを感じた。若い女の腿《もも》だった。それが植物という概念と結びついて、畸形《きけい》な、変に不気味な印象を強めていた。鬚根《ひげね》がぼろぼろした土をつけて下がっている、壊《く》えた赤土のなかから大きな霜柱が光っていた。
 ××というのは、思い出せなかったが、覇気《はき》に富んだ開墾家で知られているある宗門の僧侶――そんな見当だった。また○○の木というのは、気根を出す榕樹《たこのき》に連想《れんそう》を持っていた。それにしてもどうしてあんな夢を見たんだろう。しかし催情的な感じはなかった。と行一は思った。
 実験を早く切り上げて午後行一は貸家を捜した。こんなことも、気質の明るい彼には心の鬱したこの頃でも割合平気なのであった。家を捜すのにほっとすると、実験装置の
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