闇への書
梶井基次郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)土堤《どて》の土に

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)昨日|土堤《どて》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)犇々《ひし/\》とせまつて來る
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     第一話

 私は昨日|土堤《どて》の土に寢轉びながら何時間も空を見てゐた。日に照らされた雜木山の上には動かない巨きな雲があつた。それは底の方に藤紫色の陰翳《いんえい》を持つてゐた。その雲はその尨大な容積のために、それからまたその藤紫色の陰翳のために、茫漠とした悲哀を感じさせた。それは恰もその雲のおほひかぶさつてゐる地球の運命を反映してゐるやうに私には思へた。
 雜木山の麓から私の坐つてゐた土堤へかけては山と山とに狹められたこの村中での一番大きな平地だ。溪《たに》からは高く、一日中日のあたつてゐる畑だ。午後に
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