自分について虫のいい想像をしているんだということを吉田は思い知らなければならなかったのだった。だが吉田にとってまだ生《なま》々しかったのはその目高を自分にも飲ましたらと言われたことだった。あとでそれを家の者が笑って話したとき、吉田は家の者にもやはりそんな気があるのじゃないかと思って、もうちょっとその魚を大きくしてやる必要があると言って悪《にく》まれ口を叩《たた》いたのだが、吉田はそんなものを飲みながらだんだん死期に近づいてゆく娘のことを想像すると堪《たま》らないような憂鬱な気持になるのだった。そしてその娘のことについてはそれきりで吉田はこちらの田舎の住居の方へ来てしまったのだったが、それからしばらくして吉田の母が弟の家へ行って来たときの話に、吉田は突然その娘の母親が死んでしまったことを聞いた。それはそのお婆さんがある日上がり框《かまち》から座敷の長火鉢の方へあがって行きかけたまま脳溢血《のういっけつ》かなにかで死んでしまったというので非常にあっけない話であったが、吉田の母親はあのお婆さんに死なれてはあの娘も一遍に気を落としてしまっただろうとそのことばかりを心配した。そしてそのお婆さんが
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