、(いくらそんなことを言ってもぼんやり自分がそう思って言ったということに自分が気がつかないだけの話で、いつもそんなぼんやりしたことを言ったりしたりするから無理にでも自分が鏡と望遠鏡とを持ってそれを眺めなければならないような義務を感じたりして苦しくなるのじゃないか)というふうに母親を攻めたてていくのだったが、吉田は自分の気持がそういう朝でさっぱりしているので、黙ってその声をきいていることができるのだった。すると母親は吉田がそんなことを考えているということには気がつかずにまたこんなことを言うのだった。
「なんやらヒヨヒヨした鳥やわ」
「そんなら鵯《ひよ》ですやろうかい」
吉田は母親がそれを鵯に極《き》めたがってそんな形容詞を使うのだということがたいていわかるような気がするのでそんな返事をしたのだったが、しばらくすると母親はまた吉田がそんなことを思っているとは気がつかずに、
「なんやら毛がムクムクしているわ」
吉田はもう癇癪《かんしゃく》を起こすよりも母親の思っていることがいかにも滑稽になって来たので、
「そんなら椋鳥《むく》ですやろうかい」
と言って独《ひと》りで笑いたくなって来るの
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