冬の庭の風景を反射させては眺めたりした。そんな吉田にはいつも南天の赤い実が眼の覚めるような刺戟で眼についた。また鏡で反射させた風景へ望遠鏡を持って行って、望遠鏡の効果があるものかどうかということを、吉田はだいぶんながい間寝床のなかで考えたりした。大丈夫だと吉田は思ったので、望遠鏡を持って来させて鏡を重ねて覗いて見るとやはり大丈夫だった。
 ある日は庭の隅に接した村の大きな櫟《くぬぎ》の木へたくさん渡り鳥がやって来ている声がした。
「あれはいったい何やろ」
 吉田の母親はそれを見つけて硝子《ガラス》障子のところへ出て行きながら、そんな独《ひと》り言のような吉田に聞かすようなことを言うのだったが、癇癪を起こすのに慣れ続けた吉田は、「勝手にしろ」というような気持でわざと黙り続けているのだった。しかし吉田がそう思って黙っているというのは吉田にしてみればいい方で、もしこれが気持のよくないときだったら自分のその沈黙が苦しくなって、(いったいそんなことを聞くような聞かないようなことを言って自分がそれを眺めることができると思っているのか)というようなことから始まって、母親が自分のそんな意志を否定すれば
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