ことをさせるのだと、考えは暗いそこへ落ちた。
 その女は※[#「病」の「丙」に換えて「亞」]《おし》のように口をきかぬとS―は言った。もっとも話をする気にはならないよと、また言った。いったい、やはり※[#「病」の「丙」に換えて「亞」]の、何人位の客をその女は持っているのだろうと、その時喬は思った。
 喬はその醜い女とこの女とを思い比べながら、耳は女のお喋《しゃべ》りに任せていた。
「あんたは温柔《おとな》しいな」と女は言った。
 女の肌は熱かった。新しいところへ触れて行くたびに「これは熱い」と思われた。――
「またこれから行かんならん」と言って女は帰る仕度をはじめた。
「あんたも帰るのやろ」
「うむ」
 喬は寝ながら、女がこちらを向いて、着物を着ておるのを見ていた。見ながら彼は「さ、どうだ。これ[#「これ」に傍点]だ」と自分で確めていた。それはこんな気持であった。――平常自分が女、女、と想っている、そしてこのような場所へ来て女を買うが、女が部屋へ入って来る、それまではまだいい、女が着物を脱ぐ、それまでもまだいい、それからそれ以上は、何が平常から想っていた女だろう。「さ、これが女[#「女
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