た気味悪い肉が内部から覗《のぞ》いていた。またある痕は、細長く深く切れ込み、古い本が紙魚《しみ》に食い貫《ぬ》かれたあとのようになっている。
 変な感じで、足を見ているうちにも青く脹れてゆく。痛くもなんともなかった。腫物《はれもの》は紅い、サボテンの花のようである。
 母がいる。
「あああ。こんなになった」
 彼は母に当てつけの口調だった。
「知らないじゃないか」
「だって、あなたが爪でかた[#「かた」に傍点]をつけたのじゃありませんか」
 母が爪で圧したのだ、と彼は信じている。しかしそう言ったとき喬《たかし》に、ひょっとしてあれじゃないだろうか、という考えが閃《ひらめ》いた。
 でも真逆《まさか》、母は知ってはいないだろう、と気強く思い返して、夢のなかの喬は
「ね! お母さん!」と母を責めた。
 母は弱らされていた。が、しばらくしてとうとう
「そいじゃ、癒《なお》してあげよう」と言った。
 二列の腫物《はれもの》はいつの間にか胸から腹へかけて移っていた。どうするのかと彼が見ていると、母は胸の皮を引張って来て(それはいつの間にか、萎《しぼ》んだ乳房のようにたるんでいた)一方の腫物を一方
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